高血圧治療薬とコロナウイルス
- 2021年12月12日
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高血圧治療薬とコロナウイルス
新型コロナウイルス感染症が広がり始めた初期の論文1で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体結合部位(RBD)とヒト細胞の受容体(ACE2受容体)との結合親和性は、以前に同定されていたコロナウイルス(SARS-CoV)の結合親和性よりも10〜20倍高いことが明らかになっています。
そもそも、ACE2はヒト細胞の細胞膜に存在する膜タンパク質ですが、血管収縮剤として知られており、ACE阻害薬は高血圧治療薬として広く使用されています。コロナウイルス感染の突破口となるあACE2受容体ですが、肺、消化器系、心臓、動脈、腎臓で高く発現しています。このA C E2の発現は年齢とともに上昇し、心疾患のある患者では高くなるため、このACE2の発現量がコロナウイルス感染症の重症度に寄与しているかもしれません。
また、長期間ACE阻害剤やARBといった高血圧治療薬を内服しているとACE2受容体が増えることが示唆されています2。つまり、これらの高血圧治療薬を内服していると新型コロナウイルス感染症に罹患しやすくなるのではないかと懸念する考えがあります。しかし一方でACE阻害剤やARBを新型コロナウイルス感染症罹患前から服用していると新型コロナウイルス感染症に関連した意識障害が少ないという報告3もあります。これらのことから2021年12月時点では国際高血圧学会(I S H)、欧州高血圧学会(ESH)では「COVID-19を発症した患者がACE阻害剤またはARBの使用を中止すべきであることを示したデータは現時点では全くないことから、患者はこれらの薬剤の使用を継続する必要がある」と公表しております。
1 Wrapp, D.et al. Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation SCIENCE• 13 Mar 2020• Vol 367, Issue 6483• pp. 1260-1263•
2 Ankit B Patel et al. COVID-19 and Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin Receptor BlockersWhat Is the Evidence? JAMA. 2020;323(18):1769-1770. doi:10.1001/jama.2020.4812
3 Yasushi Matsuzawa et al. Renin–Angiotensin System Inhibitors and Severity of Coronavirus Disease-2019 in Kanagawa, Japan: A Retrospective Cohort Study
Hypertension Research, 2020 Aug 21.