中和抗体について〜ロナプリーブとソトロビマブ
- 2021年12月11日
- 新型コロナウイルス感染症
現時点で承認されている薬剤において、新型コロナウイルス感染症の治療は大きく3つの系統に分けられると考えています。①免疫抑制剤:中等症Ⅱ〜重症においてサイトカインストームを抑え、肺へのダメージを抑制する薬剤 ②ウイルスの増殖をRNA複製レベルで抑制する薬剤:ベクルリーに代表されるRNA合成阻害剤 ③ウイルスに特異的に結合する中和抗体。今後新しい作用機序の薬剤が開発されることと思われます。
2021年9月27日にソトロビマブ(ゼビュディ)が新規承認されたので、上記のうち③ウイルスに特異的に結合する中和抗体について、概観してみたいと思います。
細菌やウイルスがヒトの体内に侵入すると、ホスト(ヒトに感染した場合はヒト)の身体を構成するものとは別のタンパク質として認識されます。そして、免疫反応が誘発されるのですが、そのような物質のことを一般的に抗原と呼びます。抗原は細菌やウイルスの表面か内部にある異種タンパク質のことですが、この抗原に対して結合する抗体や受容体が、抗原を認識するための特異的な小さな抗原の部位をエピトープと呼びます。
例えば、コロナウイルスの表面はトゲトゲとした突起で覆われており、Sタンパク質(Spikeタンパク質)と呼ばれておりますが、このSpikeタンパク質には受容体結合部位(RBD;Receptor Binding Domain)が存在し、ヒトの受容体(ACE2タンパク質)と特異的に結合することが知られています。この場合、ヒトの受容体(ACE2タンパク質)はコロナウイルスの受容体結合部位(RBD)をエピトープとして認識しています。
コロナウイルスSタンパク質とヒト細胞ACE2との相互関係図
そこで、この受容体結合部位(RBD:328-533aa)に特異的に結合する中和抗体が感染防御に有効であることが判明してきました*。この中和抗体のカクテルがロナプリーブ(カシリビマブ/イムデビマブ)であり、コロナウイルスがヒト細胞に侵入するのを阻害しています。
これに対して、ソトロビマブ(ゼビュディ)は受容体結合部位(RBD)とは異なる部位をエピトープ(抗原の認識部位)として結合し、コロナウイルスに対する中和作用を発揮します。受容体結合部位(RBD)を阻害しなければ、ヒト細胞のACE2受容体と結合してウイルスの侵入を許してしまう気もしますが、ウイルスの侵入はRBD-ACE2の結合以外にも多くのタンパク質の結合や3次元的構造変化が必要ですから、そのどこかを阻害しているものと思われます。いずれにせよ、ソトロビマブは様々な変異株に対しても保存性の高いエピトープとして標的にしているため、変異株にも効果が期待できそうです。
* Barnes, C.O., et al., SARS-CoV-2 neutralizing antibody structures inform therapeutic strategies, Nature 588, 682-687, doi:10.1038/s41586-020-2852-1(2020)